「漫画で医学的判断」の愚かさ
オピニオン
2014年5月16日 (金)
岩田健太郎(神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授)
雁屋哲氏原作の「美味しんぼ」における「鼻血」にまつわる描写が問題になっている。 雁屋氏が炎上マーケティングを狙って、ありもしない鼻血話をでっち上げたのであればこれは非難に値しよう。しかし、ぼくは80年代からの「美味しんぼ」の愛読者であり、彼の性格からしてそういうことはありえないと思う。本当に福島で取材をして、本当に鼻血や体調不良に苦しむ人に会って、彼の主観として「これは問題だ」と感じたのであろう。 その主観をもとに漫画を作る権利は、どんな漫画家にもある。だから、雁屋氏を非難するのは間違っているし、ましてや小学館を非難するのはお門違いも甚だしい。「スピリッツ」は所詮、エンターテイメント漫画雑誌であり、そこに科学的妥当性を要求する方がどうかしている。 「美味しんぼ」はもともと、「権威を鵜呑みにするな。自分の頭で考え、自分の舌で判断しろ」とバブル時代の日本人の食の問題にとりくんだ、反権威主義的漫画だ。それが長寿の人気漫画となり、いまや食漫画の代表格になり、自らが「権威」に祭り上げられてしまったから起きた悲喜劇だとぼくは思う。 風評被害、風評被害というが、たかが漫画に踊らされて健康・医学的な判...
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