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「自国語」の医学書を持つのは例外的

オピニオン 2013年9月19日 (木)  岩田健太郎(神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授)

献本御礼。 新潟大学小児科教授の齋藤昭彦先生は非常にストイックな方である。それは本書(編集部注『ネルソン小児感染症治療ガイド』)の「監訳の序」を読んでも分かる。 「帰国して、まもなく5年の歳月が経とうとしているが、私は翻訳の仕事を自ら進んで行ってこなかった。なぜなら原著に勝る本はなく、翻訳することで原著者の意図するところが変わり、本来の意味が伝わらない可能性があるからだ。また特に若い人たちには常日頃から英語で医学を勉強することの重要性を伝えており、翻訳されたものがあると英語に触れる機会が少なくなってしまう可能性もある」 齋藤先生の言葉は実に正しい。多くの国のドクターは自国語で書かれた医学書を持たない。必要に迫られて彼らは英語で書かれたオーセンティックな教科書を読むのだ。繰り返し、繰り返し。ぼくはペルーで、カンボジアで、中国で、いろいろな国でオーセンティックな教科書がボロボロになるまで読み込まれてきたのを見てきた。 翻って、日本ではどうだろう。オーセンティックな教科書はたいてい和訳されている。原書を読み込む医師はごく少数派であり、翻訳版を読むものすらさほど多くない。教科書は学的知識の全て...