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「データあるが理論なし」に満ちた医療

オピニオン 2013年11月15日 (金)  岩田健太郎(神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授)

本書(編集部注『鴎外 森林太郎と脚気紛争』)はビタミンの専門家によって書かれた、いや、「脚気紛争」専門家と呼んでもよいだろう、によって書かれた非常に面白い本だ。このトピックについてはいろいろ読んできたが、本書が資料としては最高級であり、非常に網羅的、かつ読みごたえがある。当時のデータもたくさんでていて、勉強にもなる。「鴎外小倉左遷の理由」など、サイドストーリーにページ数割きすぎなところもあるが、それもマニアックな「専門家」の努力の結実なのだから、さらっと流してよいと思う。 内容(コンテンツ)には全然異論はない。しかし、結論には大いに異論がある。すなわち、「鴎外は悪くなかった」である。「森林太郎が脚気問題について言われている非難の多くは筋ちがいの非難である」(449ページ)とは、ぼくは思わない。 確かに、高木兼寛はビタミンの存在も知らなかったし、麦飯の「学理」も間違っていた。しかし、それは高木が帰納法を用いたからである。臨床データはある。が、理論はよく分からない。でも、データがそこにあるんだから、それでいいじゃん、というEBMに慣れた臨床屋にはとても分かりやすい理屈である。 森はそれを嫌...