1. m3.comトップ
  2. 医療維新
  3. 患者の死と向き合う―在宅が教えてくれたもの―

患者の死と向き合う―在宅が教えてくれたもの―

オピニオン 2015年9月8日 (火)  藤澤節子(薬局ルンルンファーマシー代表取締役)

東京・武蔵野市で20年間に渡り在宅医療に携わってきた「薬局ルンルンファーマシー」の藤澤節子氏。この連載では、在宅を通じで出会った患者さんとのエピソードをお話していただきます。 医療従事者への不信感が患者の不安を増大させる 私は今、生前にS さんが残したボイスメッセージを聞きながら、亡くなるまでの半年間を振り返っています。われわれ医療従事者が患者さんに提供するのは「医療」だけではない、そんなことを教えてくれたのが彼女でした。 Sさんとの出会いは、しとしとと雨が降る夕方、在宅医から依頼を受け、抗生剤と解熱鎮痛薬を自宅にお届けした時です。当時76歳、独身のSさんは、英語教育の教授として大学で教鞭を振っていました。弟夫婦、妹夫婦が近所に住んでいましたが、どちらも介護には非協力的。一人暮らしをするSさんの自宅は、10年前に改築した山荘風の一軒家で、天井は吹き抜けの造り、1階はすべてバリアフリーになっていました。 Sさんは直腸がんのため、2010年10月に腫瘍摘出の手術を受けましたが、11年5月に肝臓への転移が見つかり、12年10月には上腕痛とともに骨への転移が判明。同年12月には腰痛と下肢がしび...