あなたのお部屋がどんな様子なのか興味があるし…【連載小説「朔風」第75回】
スペシャル企画
2017年7月18日 (火)
久間十義(小説家)
[あらすじ・登場人物はこちら] [連載第1回はこちら] 「何だか面倒くさそうね」 と携帯の画面を差し出されて、メールを読んだまゆみが言った。 「わたしはついて行ったほうがいいのかな?」 健太朗は肩をすくめた。 「どっちでも構わないけど、居てくれたほうが若い二人の牽制というか、彼女たちの言うがままに事が運ばなくって、こっちとしては助かるかもしれない」 それを聞いて、まゆみが微笑んだ。微かに鼻にしわをよせて言った。 「わかったわ。じゃあ、お邪魔する。わたしもあなたのお部屋がどんな様子なのかちょっと興味があるし……」 大島結美と、彼女の友だちの悦っちゃんこと村田悦子は健太朗の2DKの官舎のすぐ前で待っていた。二人とも厚手のコートで身を固めていたが、十二月初めの富産別の夜はさすがに寒い。お喋りを交わす二人の息が夜目にも白く湯気を立てている。 健太朗はタクシーを降りるとき、ちょっと考えて、タクシーの運転手に小一時間たったらまたここにやって来てくれないか、と告げた。 「よろしいっすよ。もう一度やって来るとき、お電話でも入れましょうか?」 「いや、直接、クラクションを鳴らしてくれるだけでいいや。それ...
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