1. m3.comトップ
  2. 医療維新
  3. 「命は神に、病気は先生に任せています」◆Vol.3

「命は神に、病気は先生に任せています」◆Vol.3

スペシャル企画 2017年8月20日 (日)  橋本佳子(m3.com編集長)

――当初、開業までの半年間の赴任の予定が、下甑島を離れる機会を逸し、結局、手打診療所での勤務は39年間に及ぶことになった。 離島医療の面白さを感じつつも、気持ちの中では、「早く島を出ないといけない」と考えていた。昭和50年代に開業した知り合いは、結構、成功しており、僕自身も開業すれば、ある程度うまくいくと思っていた。まだ若かったから、いろいろなことに挑戦したいという気持ちは強かった。そんな思いを断念し、自分を納得させるのは難しいことだった。 けれども、結局はうまく行かず、開業への気持ちは次第に薄れていった。一方で、下甑島では、「外科医になってよかった」「自分が学んだ医学が、患者さんの役に立てる」という瞬間を本当に数多く経験した。大学病院や国立病院に勤務していた時代もそうした経験はあったけれど、離島という環境で、それが何倍にも増幅された。患者さんと築いた信頼関係は、何物にも替え難い宝となった。 手打診療所で腹部大動脈瘤の手術を希望した患者さんの手紙(提供:瀬戸上氏) ――印象に残る患者さんは数知れないが、その一人として、腹部大動脈瘤の手術を受けた患者さんを挙げる。 ある事故で頚椎損傷して...