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別れた妻からの電話【連載小説「朔風」第87回】

スペシャル企画 2017年8月29日 (火)  久間十義(小説家)

[あらすじ・登場人物はこちら] [連載第1回はこちら] ――もしもし。 バスタオルで頭髪を吹きながら、健太朗は手に取った携帯の画面を見ずに電話に答えた。てっきり、夜に電話すると言っていたまゆみが掛けてきたとばかり思ったのだ。 ――あ、もしもし、あなた? 飛び込んできた声に、耳を疑った。 ――慶子? 慶子なのか? ――ええ、そう。お久しぶりね。いま、時間があるかしら? 別れた妻にそう言われて、少し迷った。仮にまゆみが電話をかけてきて、それがこの電話とダブったならば、何か妙にうしろめたい気持ちになるような、おかしな思いに捉われたのだ。 躊躇していると、電話の向こう側の声が、どこかよそ行きになった。 ――ごめんなさい、お取り込み中みたいね。あとでまた電話するわ。 ――何かあったのかな? ――いえ、大したことじゃないの。ちょっとご報告しようと思って……。またにします。 その声に答えようとしたとき、携帯に割り込みが入った。今度こそまゆみに違いなかった。 ――すまない。じゃあ、後にしてもらえるかな。いや……、あとで俺から電話するよ。 ――いえ、急ぎの用件じゃないので、私からします。それじゃ。 あっ...