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「結局、みんな自分の都合しか考えていない」【連載小説「朔風」第96回】

スペシャル企画 2017年9月29日 (金)  久間十義(小説家)

[あらすじ・登場人物はこちら] [連載第1回はこちら] 選挙の日はすぐにやって来た。富産別市の有権者数はほぼ2万人。投票率はその日が快晴だったこともあり、70パーセントまでは達しなかったが60パーセント台後半にのぼった。立候補者は他にもいたものの、現市長の金子候補と市議会の議長だった村田候補(立候補により自動失職)の一騎打ちになり、仮にどちらかが7千票の大台に乗せるようなことがあれば、勝利は確定と考えられていた。 「どっちに入れる、なんて訊くのは野暮ですよね?」 と健太朗の4WDの助手席に乗った大島結美看護師が彼に尋ねた。その日、日直で朝から診療室に詰めていた二人は、投票時間ギリギリになって選挙権を行使しようと、彼の車で投票所である富産別高校に向かっていたのだった。 「誰に投票するかは、別に内緒でも何でもないが、そう訊かれると言いたくなくなるな」 ハンドルを握った健太朗はそう言って、選挙についての彼女の予想を尋ねた。もともと地元出身の結美には、彼には思いも及ばないネットワークと地元情報があり、一騎打ちと言われている市長選についても、すでに違った結論を出しているのかも知れないと考えたのだ...