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「おとりの貝」、発想はユニークも成功せず◆Vol.16

スペシャル企画 2018年8月16日 (木)  橋本佳子(m3.com編集長)

――住血吸虫症の撲滅には、住民の行動変容以外に、もう一つ解決方法がある。それは住血吸虫の生存の連鎖を断つことだ。 ケニアの住血吸虫症流行地での尿中の虫卵の検査風景(提供:青木氏) ワクチンのほか、人の皮膚から感染するので、防虫剤入りのローション開発も考えられますが、いずれも現地の住民が使ってくれないと意味がありません。 そこで着目したのは、現地住民は川で排尿し、排尿で排出された住血吸虫は、川にいる淡水産貝が媒介として繁殖するというサイクルです。 住血吸虫は、恐らく淡水産貝が出す何らかの物質に引き寄せられるのでしょう。「おとりの貝」、つまりそれに似た物質を持つ貝を作り、住血吸虫が増殖できないように遺伝子を組み換えておけば、住血吸虫自体の繁殖を防ぐことができると考えたのです。 こうした発想は、住血吸虫症の患者さんを診ていただけでは、生まれません。住血吸虫症がどのように人から人に感染していくか、その現場を見ているからこそ生まれるものです。私はこうした発想をする学問を「疾病生態学」と呼んでいます。 住血吸虫に限らず、寄生虫の幼虫は、ある特定の物質に向かっていくという、特殊な走化性を持っています...