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乳腺外科医事件の逆転有罪、医師・弁護士の立場から

オピニオン 2020年7月14日 (火)  田邉昇(医師、弁護士、中村・平井・田邉法律事務所)

乳がん術後の若い女性患者の胸を診察時に執刀した医師が嘗め回したということで起訴されていた事件の控訴審判決が出た。結果は予想に反して一審の東京地裁2019年2月20日判決を覆し、逆転有罪となっている(『乳腺外科医事件、高裁で逆転有罪、懲役2年』を参照)。 検察側の証拠構造は、(1)性的被害を受けたと主張する女性の証言、(2)客観的証拠として、女性の胸にアミラーゼと被告人医師のDNAが検出されたというものである。 このような証拠構造で性犯罪を立証するのはいわば検察官のスタンダードであり、痴漢事件などでは一般的に利用されている。痴漢事件も、古くは(1)だけで認定されることが通常であった(東京高等裁判所2009年5月14日判決など)。被害者女性の証言(調書)に迫真性があり臨場感があれば、それだけで有罪となっていた。もちろん、供述調書は警察官や検察官の作文にすぎないから、公判法廷での反対尋問が被告人側の唯一の手段だったが、これも被害者保護の観点から遮蔽措置など制限されてくるようになり、それに即応するものか、(1)に加えて客観的証拠として、被告人の指先に残った被害者の下着の繊維成分などを用いるよう...