在宅医療で出会った愛情に満ちたご家族

さて33回目です。 「たまには普通の医者らしいことを書け」と後ろから声が聞こえてきました。そこで今回は在宅診療についてお話しします。 僕の診療の柱の一つは訪問診療です。週1回ですが1日につき20～30人ほどの患者様を見させていただいております。 訪問診療も個人宅訪問と、有料老人ホームなど施設訪問に大きく二分され、個人宅の方は行政の支援を受けて暮らしている方と、それなりの成功を収め家族に恵まれながら自宅で療養している方という、2つのタイプがあります。訪問するといろいろなお話を聞かせていただきます。90歳の方には90年の歴史があります。ほとんどの方の人生は世に知られることはありませんが、でもこれが実におもしろい。 特に、行政の支援を受けて暮らしている方のお話が、僕にとって興味深いです。自らの才覚で会社を立ち上げ一時は豪勢な暮らしをしていたものの詐欺にあって無一文になってしまった方。若い頃、戦争で夫を亡くし、周囲からの再婚の勧めも断って子供を立派に育て上げ、今は認知症を抱えながら独り暮らしをしている方など、どの方にも簡単には言葉にできない人生が詰まっているように感じられるからです。いつか、ご...