医学・医療の不確実性を正面から見据えた判決◆Vol.27
レポート
2008年9月4日 (木)
金田朗(弁護士)
本稿を執筆前に検察側が控訴を断念したとの報に接したので、医療訴訟に関与する者として、加藤医師の無罪確定を心からお喜び申し上げるとともに、素晴らしい判決を勝ち取られた弁護団に敬意を表したいと思う。一方、本稿でも述べる通り、医療の不確実性に伴う結果とはいえ、ご遺族には心よりお悔やみを申し上げる。 これまでは「過失」は「結果」を中心に判断 さて、本件判決については、これから様々な評釈が出てくると思われるが、判決要旨を一読して筆者が最も強い印象を受けたのは、医学・医療の不確実性を正面から見据えた判決であるという点である。 刑事・民事を問わず、これまで過失論は交通事故の事例を中心に議論されてきた。このため、悪い結果が起きたことから振り返って、当該結果を予見し得たか否かということと、予見可能となった時点で当該結果を回避することができたか否かという、いわゆる結果の「予見可能性」と「回避可能性」があれば、過失ありと判断するように、「結果」を中心に判断されてきた。 そのような単純な議論で足りていた理由は、交通事故の場合、結果を避けるためにさかのぼっていけば、どの時点で何をすれば良かったかを比較的明確に同...
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