東大法学政治学研究科教授・樋口範雄氏に聞く(2)◆Vol.32
レポート
2008年9月30日 (火)
橋本佳子(m3.com編集長)
――医療事故を警察が捜査する、刑事事件化することについて、先生はどうお考えですか。 そもそも刑事裁判は、遺族のためにやっているわけではありません。公の安全、秩序維持のために刑法があるわけです。したがって、遺族が刑事裁判に期待することはできません。 しかも、「疑わしきは罰せず」「間違って無罪にすることがあっても、それは構わない」のが刑法の基本であり、これは諸外国でも同様です。「90%以上は有罪である」と思うケースしか有罪にはしません。60%、70%程度疑わしくても、これは無罪放免です。 私は大野病院事件については、当事者に直接お会いしたことはなく、ご遺族の話も、テレビで記者会見を聞いただけですが、「大野病院の院内事故調査委員会で3つの過失があると認めた。しかし、裁判になったら、医師も弁護側も過失はない、仕方がなかったと言う。こうした話は聞きたくなかった」との趣旨で話していました。 しかし、刑事裁判のシステムでは、そうならざるを得ないのです。有罪か、無罪かを決めるのが刑事裁判なのです。弁護側は通常、「犯罪者になるほどの過失はなかった」と主張します。一方で、検察はどんなことでもいいから、相手...
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