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「ここの医局は簡単にやめられませんから」医局長はそうささやいた

オピニオン 2021年9月12日 (日)  大塚篤司(近畿大学医学部皮膚科主任教授)

 繁華街から車で10分ほど離れた小さなレストランで懇親会は行われた。地方会は盛会のうちに終了し、そこにいるメンバー全員に安堵の表情が見て取れた。「ワインリストを持ってきて」 ロマンスグレーの髪とネクタイの色が同じなのは、決してたまたまではない。この教授に限って「偶然」は存在しない。すべての言動には意図があり、散りばめられたヒントに細心の注意を払い読み解くことがこの教室の医局員の仕事である。乱暴に飼われている猫のような目をして、医局長は教授の次の言葉を待った。「スプマンテのフェラーリで乾杯しようか」「はい、承知しました」 地方会の座長を務めた教授、医局長、まだ自己紹介を終えていない新人と思われる女性医師2名と、教授の昔のよしみで講演者として呼ばれたぼくの5人は、奥の座席で声を落として乾杯した。「今日の講演面白かったよ」 教授の持つシャンパングラスの底から、細かな泡がまっすぐ途切れなく空へと登っていく。「ありがとうございます」「それにしてもこの間の教授選は残念だったね」 どちらかというと小柄の教授がときに大男のように見えるのは、物怖じしない言葉と威厳によるものだ。「...